言語聴覚士は何らかの原因で言葉が上手く話せない方や、嚥下障害に困っている方を対象にリハビリや指導を行います。理学療法士や作業療法士に比べると、まだ世間的な認知度の低い職種ですが、医療・福祉の分野では重要な役割があります。
言語聴覚士は病院や福祉施設、学校などで働いており、他の医療職よりも幅広い活躍の場がある職種です。今回は言語聴覚士という仕事について、平均年収や職場、給与アップの方法についても紹介します。
現在言語聴覚士を目指している方、転職して言語聴覚士になりたい方は、ぜひ本記事の内容を就職・転職の参考にしてみてください。
言語聴覚士の仕事とは
言語聴覚士という仕事について詳しく見ていきましょう。言語聴覚士になるためのルート、仕事内容、活躍の場などを解説します。
言語聴覚士になるには専門学校か大学卒業が条件
言語聴覚士は国家資格の1つで、特定の教育課程を履修したうえで国家試験に合格することで、厚生労働大臣から免許を受け取ることができます。試験の合格率は例年50~60%で、国家試験としては平均的な難易度と言えます。
国家試験を受けるためには、以下2つのうちどちらかの教育課程を通らなければなりません。
- 高校卒業後、大学・短大・専修学校(3~4年制)を卒業
- 一般の4年制大学を卒業後、大学・大学院で専攻・専修学校(2年制)を卒業
他にも特殊なルートはありますが、基本的には上記2つが一般的なルートとなっています。学校では言語に関する専門科目を学習するだけでなく、心理学や音声学、社会科学なども学び、言語聴覚士として必要な基礎知識を修得します。
言語障害や嚥下障害へのリハビリを行う専門職
言語聴覚士の仕事は病気による言語障害や聴覚障害、加齢に伴う嚥下障害、小さな子供の言葉の発達遅滞などへのリハビリを行うことです。患者層は非常に幅広く、幼児から高齢者までほぼすべての年齢が対象になります。
脳卒中による失語症や構音障害のほか、咽頭がんなどで声帯を失った方にも訓練や指導で改善を目指します。また、特殊な仕事としては医師の指示のもと、人工内耳の調整も言語聴覚士の仕事の1つです。
言語障害、音声障害、嚥下障害など、人間がコミュニケーションや生きていくうえで、どうしても欠かせない能力に援助を行うのが言語聴覚士です。
職場は医療・保健・福祉・教育施設など
言語聴覚士はリハビリの専門職として、病院では医師・看護師・理学療法士・作業療法士・社会福祉士などと連携して活動します。医療施設で働く言語聴覚士も多いですが、他の施設で働くこともできます。
例えば、保健施設では介護老人保健施設・デイケア・訪問リハビリテーション、福祉施設では特養・デイサービス・肢体不自由児施設、教育施設では小中学校・特別支援学校・言語聴覚士教育施設などが活躍の場です。
言語聴覚士全体で見れば67%は医療機関に勤めていますが、就職先は医療専門職の中でも豊富な職種と言えます。また、言語聴覚士にも他のリハビリ専門職と同様、それぞれ専門領域があります。
自分が専門とする領域に合わせて職場を選ぶケースもあれば、興味のある領域の職場へと転職するケースもあるなど様々です。
参考:一般社団法人 日本言語聴覚士協会 言語聴覚士とは
https://www.japanslht.or.jp/what/
言語聴覚士は全国に3万人以上
言語聴覚士は1997年に国家資格として認定されてから、毎年1,000~2,000人程度増加しています。2022年3月時点では全国に3万8,200人が資格を有しており、医療機関や介護・保健施設、教育機関で働いています。
毎年ほぼ一定のペースで増加傾向にあり、今後も増加していくことが予想される職種です。
言語聴覚士の年収・年齢層は?
言語聴覚士の年収や働く人の年齢層を確認します。これから言語聴覚士として働き始める方は、自分の収入と比較する材料にしてみてください。
平均年収は約420万円
言語聴覚士の年収については、令和2年の賃金構造基本統計調査によると平均給与が29万600円、賞与が70万2,200円となっています。平均年収にすると418万9,400円となり、医療職の中では平均的な収入です。
ただし、統計データは言語聴覚士だけでなく、理学療法士・作業療法士・視能訓練士とも合わせた平均ですから、言語聴覚士だけの収入ではない点に注意が必要です。そのため、平均年収についてはあくまで目安と考え、自分の収入が高いか低いかで一喜一憂しないようにしましょう。
また、収入については都道府県ごとの最低賃金や物価、職場によっても差が大きいものです。言語聴覚士で高収入を目指すなら、転職前に自分自身が満足できる条件の職場をしっかりと探してみてください。
参考:e-Stat 政府統計の窓口 賃金構造基本統計調査/令和2年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種
年齢層は医療職で最も若い
同じく令和2年賃金構造基本統計調査によると、言語聴覚士を含めたリハビリ職は平均年齢が最も低いという特徴があります。リハビリ職自体が比較的新しい資格であることと、社会的な認知度の高まりとともに、若い世代が増えてきたことが背景です。
一般的に医療機関であれば定年が55歳または60歳ですが、定年後もリハビリ職は同じ職場で働き続ける方が多いです。リハビリ職には若い世代も多く、定年後まで見据えた働き方をするなら、言語聴覚士はおすすめの職種と言えるでしょう。
言語聴覚士は新しい資格で需要も多い
言語聴覚士は国家資格の中では比較的新しいものであるとともに、有資格者の数は他のリハビリ職と比較して少ないのが現状です。2022年3月時点で言語聴覚士は3万8,200人ですが、理学療法士は13万3,133人(2022年3月末時点)、作業療法士は6万2,294人(2019年度)となっています。
他のリハビリ職よりも有資格者数が少ないため、今後も多くの医療機関や保健・福祉施設で需要のある資格になるでしょう。活躍の場も多いですから、自分の興味がある分野、専門領域と照らし合わせて検討すれば、様々な職場で働く道筋が見つかるはずです。
参考:公益社団法人 日本理学療法士協会 統計情報
https://www.japanpt.or.jp/activity/data/
一般社団法人 日本作業療法士協会 統計情報 2019年度 日本作業療法士協会会員統計資料P5・6
https://www.jaot.or.jp/files/page/jimukyoku/kaiintoukei2019.pdf
言語聴覚士が給与アップする5つの方法
言語聴覚士は比較的年収が低めですが、年収アップを狙う方法もあります。年収アップに繋がる5つの方法について紹介します。
1つの職場で長く働き、役職に就く
言語聴覚士は他の医療職と同様、勤続年数に伴って給与がアップするケースがほとんどです。特に医療施設や保健・福祉施設では経験年数による昇給が基本で、1つの施設で長く働いた方が昇給は早くなります。
また、いわゆる主任や科長クラスになれば、基本給にプラスして役職による手当も期待できます。現状、リハビリ職は夜勤がなく、日勤のみの働きですから、長く働いて役職手当をもらうのが確実性の高い収入アップの方法です。
ただし、職場に給与面やそれ以外で不満がある場合には、転職を考えることも選択肢の1つになります。現在の職場に全く不満がない人はまずいませんから、転職を考えるほどかどうかは考えてみた方がよいでしょう。
キャリアアップや手当に繋がる資格を取る
言語聴覚士は基本的に年功序列制ですから、1つの職場で長く働く方が昇給は早いです。しかし、昇給しても役職がつかなければ基本給のままで、どれだけ頑張っても他の職員と同じ収入にしかなりません。
収入アップを目指す方法としては、言語聴覚士として専門性を高める資格を取得する方法がおすすめです。言語聴覚士としてキャリアアップを図るなら、「認定言語聴覚士」の取得を目指しましょう。
認定言語聴覚士は日本言語聴覚士協会の認定資格で、6つの領域に分かれています。
- 摂食嚥下障害領域
- 失語・高次脳機能障害領域
- 言語発達障害領域
- 聴覚障害領域
- 成人発声発語障害領域
- 吃音・小児構音障害領域
認定資格は言語聴覚士として満5年の臨床経験と、生涯学習システム専門プログラムを修了していれば受講可能です。言語聴覚士のキャリアを伸ばすなら、認定制度を利用してみるのがよいでしょう。
また、医療機関以外で働く場合であれば、教員資格や心理カウンセラー、手話通訳士などを取得する選択肢もあります。ダブルライセンスを保有することでキャリアアップだけでなく、転職先の幅も広がるでしょう。
独立開業する
数は多くありませんが、言語聴覚士として独立開業して収入アップに繋がった方もいます。独立して訪問リハビリ事業所を開業し、経営者として部下を持ちながら働く方法です。
言語聴覚士は医療機関では医師の指示に従い、保険診療でリハビリを行います。一方、訪問リハビリ事業所を開業すると、保険適用がないため利用者の自己負担で利用でき、医師の指示がなくても言語訓練や構音訓練ができます。
そのため、地域で困っている脳血管障害後の失語症患者さんや、言葉の遅れがある子供に訓練・指導が可能です。ただし、保険適用がないことで患者さんの全額自己負担になることと、医師の指示が必要なリハビリはできない点には注意してください。
まだ挑戦する人は少ないですが、成功すれば年収の大幅アップも期待できます。
介護老人福祉施設や介護老人保健施設へ転職する
言語聴覚士の転職先は医療機関だけでなく、介護老人保健施設や介護老人福祉施設もあります。施設によって働き方は異なりますが、介護老人保健施設であれば利用者のリハビリを中心に行い、日常生活の復帰支援を行います。
リハビリが中心ですから日勤がほとんどで、手当はあまり期待できません。その分基本給が高い職場もありますから、仕事内容・量と給与条件のバランスで転職先を検討しましょう。
介護老人福祉施設は入居者のリハビリがあり、職場によっては介護職員と同じように働くケースもあります。夜勤ありの職場なら夜勤手当も支払われるため、給与アップが期待できます。
また、訪問リハビリ事業所で働く場合は、対応した件数や成果に応じてインセンティブがもらえる職場もあります。経験豊富な言語聴覚士は貴重な人材ですから、訪問リハビリに転職して収入アップが目指しやすいです。
学校や研究機関で働く
言語聴覚士かつ教員として小中学校や特別支援学校で働くことで、公務員と同じように安定した収入を得る方法があります。他にも言語聴覚士の養成校や大学で働く道もあります。
大学の場合は講師からステップアップして教授になることもでき、役職に就けば大幅な年収アップとなるでしょう。もちろん、教授になるには途方もない努力を続ける必要があり、決して簡単な道ではありません。
ですが、言語聴覚士として後継世代を育成するのは大きなやりがいにもなります。努力と才能は求められますが、教育・研究機関で言語聴覚士として働く選択肢があることも知っておいてください。
まとめ:言語聴覚士は転職先によって給与が大きく変わる
言語聴覚士の3人に2人は医療機関で働いており、経験年数に伴って昇給していきます。しかし、言語聴覚士は医療職の中で特別に高い給与とは言えず、年収アップを目指すなら転職も選択肢になり得ます。
経営者としてマネジメントしていく自信があれば独立開業、働きに応じた収入アップを目指すなら訪問リハビリや保健・福祉施設、安定した生活を求めるなら教育・研究機関のいずれかがよいでしょう。
言語聴覚士の収入は職場によって大きく変わります。仕事内容と仕事量、給与、専門とする領域などを総合的に検討し、収入アップしつつ働きやすい職場を選んでください。