看護師の仕事は病院や介護施設など、医療・福祉分野だけではありません。美容業界でも看護師の力は求められており、看護師は独自の立ち位置として確立されています。
美容業界に対するイメージは、「美容やメイクが得意な人が多い」「若くて美人な看護師が多い」と考える方も多いはずです。確かに美容業界で働くには美への意識は必要ですが、それも働く中で養うことができます。
本記事では美容医療、特に「美容皮膚科で働く看護師」について解説します。美容に興味はあるものの美容クリニックへの転職に不安がある方、美容医療業界に踏み込む前に仕事を知りたい方は、本記事を参考にしてみてください。
美容皮膚科とはどんなところか
まずは、美容皮膚科とはどのようなところか、病院の皮膚科や美容整形外科との違いも含めて解説します。
美容皮膚科は肌の美しさを磨く
美容医療には大きく分けて、「美容皮膚科」と「美容整形外科」があります。美容皮膚科は肌の美しさを追求する美容医療で、美容整形外科のように整形や外科的治療は行いません。
美容皮膚科においては、サプリメントや内服薬、外用薬の処方と、ボトックスやヒアルロン酸注射、レーザー治療などを行うことで肌の状態を維持・改善する医療です。
美容医療は病気を治すことではなく、現在の状態をより良くすることが一番の目的です。そのため治療を受ける目的も様々で、アンチエイジングや美肌、脱毛、シワ・たるみの除去など幅広いニーズがあります。
美容医療業界で働く看護師に共通する業務として、カウンセリングと診療介助に重きを置きます。特に美容医療ではカウンセリングで患者さんの要望を正しく理解し、最適な施術と費用やスケジュールの説明などが重要です。
美容医療は自由診療ですから、患者さんは大きな出費も覚悟して治療を望んでいます。看護師は患者さんの美しくなりたいという気持ちに寄り添い、医師との橋渡しや不安を払拭する大事な役割があります。
皮膚科との違い
通常の皮膚科と美容皮膚科、大きな違いは治療の目的です。皮膚科は皮膚に発生する病気や症状の治癒を目的にしています。
一方、美容皮膚科では肌のシミ・シワ、くすみなどの改善、脱毛など肌をより美しくすることが目的です。
皮膚科ではアレルギーによる痒み・かぶれ、熱傷・凍傷、褥瘡、アナフィラキシー症状などの病気を治療することが基本で、美肌の治療は行っていません。また、皮膚科の治療は保険適用もあり、公費での治療を受けられる点にも違いがあります。
例外的にAGA(男性型脱毛症)治療だけは自由診療ですが、他は保険診療となっています。
逆に美容医療は基本的に保険適用されないため、費用は高額になりますが、その分患者さんの望む治療を提供できる点も大きな違いです。美容皮膚科では、ほくろやあざ、毛穴の黒ずみ、妊娠線の改善なども診療に入っており、病気ではない皮膚のトラブルを改善したい方におすすめです。
美容整形外科との違い
美容整形外科と美容皮膚科、どちらも美容医療を提供する診療科ですが、大きな違いは外科的治療を行うか行わないかです。美容整形外科では皮膚の状態を維持・改善するのではなく、見た目そのものを美しくし、理想の自分へと近づけることが目的です。
そのため、美容整形手術やコラーゲン・ヒアルロン駐車、二重瞼の形成術、降鼻術、脂肪吸引など外科的・侵襲的治療で状態改善を目指します。
看護師に求められる役割も美容皮膚科とは異なり、手術介助や術後管理、創傷処置などのスキルが必要です。クリニックの規模にもよりますが、手術は医師1人で行い、手術介助に入る看護師も1~2名が基本です。
医師との意思疎通も大事になることから、手術室経験者や看護師経験豊富なベテランの方が働きやすいでしょう。
美容皮膚科の看護師とは
美容皮膚科の看護師の仕事はどのようなものか見ていきます。一般の診療科とは違い、美容医療業界ならではの点もあるため、病院との違いを考えながら読んでみてください。
美容皮膚科ではカウンセリングや営業も担当する
美容皮膚科の看護師は医師の診療介助をはじめ、患者さんの悩みを聴取するカウンセリング、注射やレーザー機器による施術、受付や予約管理まで幅広い業務を担当します。
一般の病院では患者さんへの問診を行い、医師に検査確認を行うまでが仕事です。美容皮膚科では患者さんの悩みと治療への希望を細かく聴取し、カウンセリングも行います。
また、美容系のクリニックでは看護師の指名制度を導入していることも多く、患者さんがお気に入りの看護師を選べます。選ばれた看護師は指名率や売上、評判などの貢献度によってインセンティブも発生する仕組みです。
そのため、一般の病院のように治療や診療の補助を行うだけでなく、患者さんに気に入ってもらえるように営業を行うことも大事な業務です。病院との違いで最初は戸惑う部分もあるでしょうが、患者さんの笑顔に繋がる美容医療は非常にやりがいがあります。
美容皮膚科看護師の1日の流れ
美容皮膚科看護師の一日は以下の流れが一般的です。
時間 | 仕事内容 |
9:00 | 出勤・開院前準備 |
9:30 | 開院・患者受付 |
10:00 | 午前診療開始・カウンセリング・診療介助 |
12:00 | 昼休憩・院内環境整備 |
13:00 | 午後診療開始・施術の介助(レーザー脱毛・ヒアルロン注射等) |
15:00 | 施術後のフォロー・美容指導 |
17:00 | カルテ記録・翌日の準備 |
17:30 | 院内の片付け・退勤 |
美容クリニックは若い女性の方が患者層の中心ですから、院内は常に清潔に保つ必要があります。通常の病院でも環境整備は感染症予防と転倒防止などの観点で必要ですが、美容クリニックは何よりも患者さんからの印象が大事です。
雑然としていて汚れが目立つクリニックでは、美を求める若い女性からは受け入れてもらえないでしょう。そのため、看護師はカウンセリングや診療介助、営業だけでなく、院内の環境整備にも手を抜いてはいけません。
加えて、美容クリニックで働く以上は看護師の身だしなみもポイントで、派手すぎないメイク、最新のトレンドも活かして患者さんに注目してもらうことも意識しましょう。
美容皮膚科は一定の経験を持つ方が働きやすい
美容皮膚科に限ったことではありませんが、看護師経験がゼロの方が美容医療の業界に入るのは現実的には厳しいです。中には新人で美容クリニックに勤める方もいますが、決して多くはありません。
その理由には大きく3つの理由があります。
- 社会人経験がないと接客や営業が難しい
- 医療知識と技術が未熟
- クリニック側の教育コストが掛かる
上記の3つが大きいとされています。美容医療は純粋な医療分野よりも業務内容が営業に近く、患者さんに失礼のない態度で接しつつ営業トークをするには、社会人経験者の方が有利です。
付け加えると、美容医療でも注射やレーザー治療、カウンセリングなど経験が活きる場面が多く、看護師経験をある程度積んでいないとクリニック側も採用しにくいという背景があります。
また、新人教育をするには膨大なコストが発生するとともに、少人数制のクリニックでは指導者も必要です。コストと人員の関係から、新人よりも3年程度の経験を積んだ看護師の方が優遇される傾向があります。
ただし、あくまで経験者が有利なだけであって、新人でもクリニックのニーズと合致すれば採用される見込みはあります。
美容皮膚科はインセンティブを導入しているところが多く、新人でも高収入を狙いやすいため、美容医療に関心のある方は求人を狙ってみてはいかがでしょうか。
美容皮膚科に求められる人材とスキル
美容皮膚科にはどのような人材が向いているのでしょうか。優遇されやすいスキルについても確認します。
美容皮膚科が向いている人の特徴
美容皮膚科が向いている人の特徴を解説します。「美人じゃなきゃダメ」「もう年齢的に厳しい」などの理由で前向きになれない方でも、以下の特徴に当てはまれば十分適性があると言えます。
- メイクや美容に普段から気を遣っている
- 日勤中心で働きたい
- 患者さんとのコミュニケーションが好き
美容クリニックで働く方には美人が多いと言われますが、実際には美容やメイクへの関心が高いから、結果として美しくなったというのが正解です。
美容ナースになる方は自分自身も美容クリニックへの通院経験を持つことも多く、看護師として働くうえでも経験を活かせます。患者さんのコンプレックスや自信のなさを美容で解消したいと思う方なら、美容皮膚科への適性は高いです。
美容皮膚科は入院設備を設けていることは少なく、基本的には通院による治療です。そのため、看護師の業務も日勤が中心で、夜勤なしでの働きを求める人に向いています。
ただし、日勤中心でも多忙な業務であり、土日でも関係なく仕事があります。「日勤中心なら仕事も簡単そう」と考えている方には、おすすめできません。
美容医療の業界は患者さんとのコミュニケーションが重要で、カウンセリングもしながら患者さんの潜在的なニーズも洗い出します。患者さんとのコミュニケーションを取りながら、時には悩みに寄り添い、時にはアドバイスもしながら関わる看護が求められます。
どんな患者さんともスムーズにコミュニケーションを取れる方なら、美容ナースにも向いているでしょう。
美容皮膚科で求められるスキル・技術
美容皮膚科で看護師として働くためには、特別なスキルや資格は必要ありません。美容整形外科であれば手術室経験も活かせますが、美容皮膚科では特殊な技能を要求されることは少ないでしょう。
ただし、全くスキルが不要というわけではなく、看護師として基本となる注射技術、医療機器の取り扱い、緊急時の対応などは理解しておくことをおすすめします。
美容皮膚科では看護師が注射や施術介助を行うため、基本技術の習得は必須です。また、外用薬や内服薬が体質的に合わず、発赤や発疹、かゆみを生じる患者さんも稀に現れます。
そうした状況でも適切な処置やアドバイスを行い、必要なら病院受診を勧める判断力は必要です。特別なスキルこそ求められませんが、基本の医療技術と一定の経験に基づく判断力は要求されるでしょう。
美容皮膚科看護師のやりがいと人気の理由
美容皮膚科の看護師として働く中で、多くの方がやりがいと感じること、そして人気の理由を解説します。看護師にとってやりがいになるのは、次のポイントです。
- ワークライフバランスが取りやすい
- 給与が高い
- 病院での看護技術が活かしやすい
- 自分自身の美容知識も得られる
美容皮膚科の勤務は日勤中心で、残業はあるものの頻繁でもありません。子育て中の方やプライベートの時間を大事にしたい方にとっては、ワークライフバランスを取りやすい環境と言えます。
加えて、日勤中心の働き方でも給料が比較的高く、インセンティブ制度があれば基本給にプラスされて手当が支給されます。頑張りが給料という形で返ってくるため、働く看護師にとっては大きなやりがいです。
人気の理由としては、病院で培った看護技術が転職してからも活かしやすく、看護師経験が無駄になりません。特別技術も求められないことから、ある程度経験を積めばどの看護師でも働きやすい点も人気の理由です。
また、美容に元々関心がある看護師が集まりやすいことから、自分自身のメイクや美容への意識も高まります。クリニックによってはジムの利用や院内化粧品の割引も受けられるケースもあります。
医療と美容に関心が高い看護師であれば、どちらも学べる良い環境と言えるでしょう。
美容皮膚科で働くうえで大変なこと
美容皮膚科にはやりがいも多いですが、働くうえで知っておくべき大変なこともあります。どのようなポイントが大変なのか見ていきましょう。
- 病院に戻りにくい
- キャリアアップしにくい
- 営業スキルも磨く必要がある
- 個人のイメージが病院の評判につながる
美容皮膚科で働くうえで知っておくべきなのは、美容医療の技術を一般の病院では活かしにくい点です。美容医療独自の技術は病院で必要とすることが少なく、元々基本の看護技術があれば働ける環境です。
そのため、経験の長さがスキルに繋がりにくく、病院に戻りにくい点が大変なポイントになります。また、キャリアアップの観点からも管理職への昇格が困難で、美容医療業界内でのキャリアアップに限定されるでしょう。
美容医療業界で看護師として活躍するには、営業スキルも磨く必要があります。毎月のノルマを設定していないクリニックもありますが、インセンティブが発生するところは多いです。
基本給にプラスして支給されるインセンティブを狙うなら、営業スキルで患者さんに人気の看護師になる必要があります。さらに、気を付けるべきなのが看護師個人のイメージです。
美容クリニックは競争の激しい業界であるとともに、少人数で営業しているところが多数です。職員の中のたった1人のイメージが悪くなると、それだけでクリニックの評判は悪くなります。
営業スキルを磨くだけでなく、患者さんに好印象を持たれるように常に気を配る必要があるため、美容皮膚科の看護師の仕事は精神的な負担になりやすいです。
まとめ:美容やメイクへの関心が強い人は美容皮膚科がおすすめ
美容医療には美容皮膚科と美容整形外科がありますが、メイクやアンチエイジングなどの肌への関心がある方は、美容皮膚科で働くのがおすすめです。
看護師としてある程度の経験を積んでいるのが理想ですが、新卒の看護師でも働けます。基本となる看護技術さえ習得できれば、美容の知識や営業・接客スキルを活かして活躍できます。
患者さんとのコミュニケーションが好きな方、日勤のみで働きたい方にもおすすめの職場です。また努力次第で一般の病院よりも高収入を目指すことができます。
他の診療科にはない独自のやりがいを見つけたいなら、美容皮膚科への転職を検討してみてはいかがでしょうか。