看護師の働く場所といえば病院を思い浮かべるかと思いますが、病院以外にも看護師が働く場所として美容外科があります。美容外科は病院のような医療施設と治療内容が異なり、病院勤務の看護師にとっては未知の業界です。
ですが、近年美容医療業界は看護師の転職先として人気が高く、給与の高さも相まって採用倍率も非常に高いです。今回は美容外科を中心に美容外科での看護師の仕事、1日のスケジュール、求められるスキルは何かなどを紹介します。
美容に興味のある方、ワークライフバランスを大事にしたい方、高い給料を求める方は、ぜひ美容外科を転職先の候補に入れてみてください。
美容外科はどのような診療科なのか
美容外科で働くにあたって、美容外科とはどのようなところなのかを知りましょう。特徴や一般病院との差、給与など多くの面で特徴があります。
美容外科について知ることで、働き方をイメージするのに役立ててください。
美容外科の特徴
美容外科は二重まぶたの整形手術、脂肪吸引術、豊胸手術など、外科的な手術で容姿を整えることを目的とした診療科です。看護師は検査や注射、診療介助のほか、手術介助も行うことになります。
一般的には美容クリニックと呼ばれることもありますが、この名称は美容外科と美容皮膚科をまとめた呼び方です。美容皮膚科はニキビ、シミ、くすみ、ムダ毛などの肌トラブルを処方薬やレーザーなどの内科的な治療で改善を目指します。
美容外科と美容皮膚科では治療方法が根本的に異なるため、美容クリニックで働く場合は両者の違いを理解しておく必要があります。
そのため、転職先として美容外科を考えている場合は、手術介助に入ることも前提に職場を選んでください。
一般病院との違い
次に、美容外科と一般病院の違いについても確認しましょう。美容外科も一般病院も患者さんに治療をするという点では同じですが、大きな違いが2つあります。
- 美容外科は保険適用がない自由診療
- 美容外科は病気の治療を目的としてない
上記の2つが大きな違いです。まず、一般病院を受診する際は保険診療を受けられるため、1~3割が患者さんの自己負担です。
残りは公費負担で保障されるため、患者さんの経済的な負担は小さくなります。一方の美容外科は保険診療の対象ですから、費用はそのまま患者さんの負担です。
また、美容外科はそもそも病気を治療する一般病院と違い、本人の理想とする容姿に整える治療です。そのため、どのような治療を受けるかは患者さんの医師に委ねられています。
看護師も患者さんに寄り添い、どのような治療を受けたいのか、どのような結果を望んでいるのか理解することが大事です。
営業ノルマがあるのか?
結論から言うなら、ほとんどの美容クリニックでは営業ノルマはありません。というのも、美容クリニックは一般企業と違い、外回りで営業をかけることがないからです。
患者さんが美容クリニックを選んで訪れる形であるため、営業などしようがないという面もあります。ですが、美容クリニックでは看護師の指名制度を採用しているところも多く、指名の多い看護師や売り上げに貢献した看護師にはインセンティブが支払われます。
一般病院とは違い、患者さんが多くの治療を受けるほど、看護師の給与もアップする仕組みです。そのため、営業ノルマを設けているケースは少ないですが、看護師の努力が給与に結びつき、モチベーションに繋がるでしょう。
年収アップを目指すなら選択肢になる
看護師の仕事は医療関係の職種では比較的給与が高く、令和2年の賃金構造基本統計調査によると、平均給与額が33万4,400円、平均賞与額が80万7,200円となっています。
合計すると平均年収は482万円となっていますが、美容外科では平均よりも高い給与が期待できます。美容外科の人気、患者さんの受ける治療、仕事内容によっても差異はありますが、インセンティブという手当で50万円以上を稼ぐことも可能です。
もちろん、常にそれだけの手当が保証されるわけではありませんが、基本給に上乗せされれば大幅な収入アップとなるでしょう。また、夜勤は基本的にないことから、一般病院の看護師よりも働きやすい環境と言えます。
加えて、美容外科は手術介助がある分、美容皮膚科よりも手当が多くなる傾向があります。日勤のみで高い給与を求めるのであれば、美容外科はおすすめの職場と言えるでしょう。
参考:e-Stat 賃金構造基本統計調査 (令和2年と同じ推計方法による集計)職種別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
美容外科看護師の仕事内容・役割
美容外科看護師はどのような仕事をするのか、もっと具体的に紹介します。1日の仕事の流れについても解説します。
美容外科看護師の仕事内容
美容外科の看護師は次の仕事を行います。
- 電話受付
- 予約管理
- 診察前の問診
- 医師の診療介助
- 術前カウンセリング
- レーザー照射
- 採血・注射・点滴
- 術前のバイタルチェック
- 術後のケア・カウンセリング
- 術後のセルフケア・生活指導
一般病院の外来と同様の働きが多いですが、特徴的なのは術前・術後のカウンセリングです。カウンセリングでは問診の内容に加えて、手術前に患者さんがどのような容姿になりたいのか、どこを変化させたいのかを正確に把握することを目的にしています。
二重まぶたの手術や脂肪吸引、豊胸手術は医師でなければ行えないため、医師が患者さんの希望を把握できるようにカウンセリングしなければなりません。
術前・術後にカウンセリングを行う理由としては、患者さんのニーズを把握するほかにも、患者さんの不安や悩みに寄り添う目的があります。美容外科の治療は身体にメスを入れることが多く、女性患者にとっては不安がつきまといます。
看護師は医療の専門家として、患者さんが前向きな気持ちで治療を受けられるように、サポートすることが大事な役割になるでしょう。
1日のスケジュール
美容外科での看護師の1日のスケジュールを確認します。
9:30 | 出勤・ミーティング |
10:00 | 患者受付・手術予定の確認・準備(手術器具・薬剤等のチェック)・術前カウンセリング |
11:00 | 手術開始・手術介助 |
13:00 | 昼休憩 |
14:00 | 患者受付・手術介助 |
16:00 | 術後カウンセリング・アフターケア |
18:00 | 手術器具の洗浄・片付け・カルテ記録・翌日の手術準備 |
19:00 | 退勤 |
美容外科の仕事は手術を行うことですから、1日の多くの時間は手術をして過ごします。毎日手術があるとは限りませんから、診察日には手術の予約、術後の経過観察、悩みの相談なども行います。
上記のスケジュールは一般的で大まかなスケジュールですから、クリニックによって予定が前後することもあるでしょう。しかし、基本的に美容外科は立ち仕事と手術介助が多く、体力も必要な仕事です。
美容外科看護師は手術介助も行う
美容外科看護師は医師の行う手術の介助を行い、スムーズな治療を実行できるよう補助します。手術の介助をするためには一定の看護師経験は必要で、勤めるなら3年以上の看護師経験に加え、手術室の勤務経験もあると理想的です。
手術室の経験がなくても働くことはできますが、術中の患者管理は厳格で、経験がなければ難しいでしょう。そのため基本的な看護技術はもちろんですが、手術室の勤務経験を持っている人の方が働きやすいです。
美容クリニックの求人が掲載されている場合には、美容外科は手術室経験のある人の方が有利である点を理解しておいてください。
美容外科看護師に求められるスキル
美容外科で看護師が働いていくうえで、求められやすいスキル・資格を紹介します。看護師資格以外は必須ではありませんが、資格を持っていると好条件で働きやすいので参考にしてみてください。
注射や点滴、機器の操作スキル
まず、美容外科で働くには看護師として基本的な技術が必要です。注射や点滴を正確に血管に刺入するテクニック、手術中の厳密なインアウトバランス調整のために輸液ポンプの操作、レーザー照射治療を行う技術など多くのスキルを求められます。
この点が新人看護師には難しいポイントで、美容クリニックで新人が採用されにくい理由でもあります。美容クリニックは個人や小規模で運営しているところが多く、新人教育に時間とお金を掛けられないことがほとんどです。
そのため、求められる人材は即戦力が多く、看護師として基本的な技術を習得している3年目以降の方が有利です。基本的な看護技術を習得している方は、美容外科で働くスキルは持っていると言えます。
手術室スキル
美容外科では手術が日常的に行われるため、看護師は手術室で経験を持っていると有利です。手術室では患者さんの全身管理、輸液の速度、尿量、心拍数などを精密に測定し、逐一医師に報告しなければなりません。
手術中に異常があれば即座に対応が求められますから、正常と異常の判断力も必要となります。手術室での厳格な管理能力、判断力は手術の中でしか磨かれず、経験がものをいいます。
美容外科で活躍するためには、手術室の経験を持っていると非常に有利です。
接客対応・営業力
美容クリニックでは美容外科も美容皮膚科も、接客業と同じように患者さんへ対応しなければなりません。美容クリニックは一般の病院と違い、一度評判を落とすと信頼を取り戻すには多くの時間を要します。
そのため、看護師には患者さんと誠実に向き合う姿勢と、患者さんに信頼される言動を求められるでしょう。美容クリニックでは患者さんから信頼されれば、リピーターになってくれる可能性が高いです。
リピーターを得るには接客対応と営業力が必須ですから、美容外科の看護師はこうしたスキルを日々磨くことも求められます。
エステティシャンなどの資格
美容外科看護師になるには、看護師資格以外に必須の資格はありません。ですが、日々の仕事に役立つ資格もあるため、どのようなものがあるのか紹介します。
- 美容師
- 理容師
- 福祉理美容士
- アロマセラピスト
- エステティシャン
- 英検・TOEIC等の語学検定
上記の中でもエステティシャンとアロマセラピスト、そして語学検定はおすすめの資格です。理容師や美容師は取得までに専門学校に通う必要があり、多くの時間を必要とします。
一方のアロマセラピストやエステティシャン、語学検定は通信講座でも取得できます。
加えて、エステティシャンのカリキュラムには接客対応や皮膚の知識も含まれるため、美容外科とも相性が良い資格です。語学検定はハードルこそ高いですが、取得していると外国人の患者さんにも対応できます。
日本の美容医療を受けに来る外国人患者さんは多いですから、取得していると採用面で有利です。いくつも取得する必要はありませんが、どれか1つでも資格を取得していると採用でも高評価に繋がるでしょう。
美容外科看護師のやりがい・大変に感じるところ
美容外科看護師として働くうえで、知っておきたいやりがい・大変と感じるポイントを見ていきましょう。
美容外科看護師のやりがい
美容外科看護師で多くの方が感じているやりがいを見ていきましょう。
- 頑張りが給料に繋がりやすい
- 仕事とプライベートの区別がはっきりしている
- 夜勤がないので生活リズムが整えやすい
- 看護師としてのキャリアを生かせる
- 患者さんに寄り添った治療ができる
- 自分自身の美容に繋げやすい
美容外科では基本給に加えて、インセンティブ制度で成果が給与と結びついています。一般病院ではどれだけ働いても基本給と手当以上は支給されませんが、美容外科では働きをしっかりと評価してくれるシステムがあります。
また、一般病院とは違い夜勤がなく、残業も少ないため、仕事とプライベートを明確に区別できる点も大きいです。ワークライフバランスを取りやすく、若い世代の看護師からも人気の高い職種です。
そして、自分の看護経験を生かして働けるとともに、患者さんに寄り添った看護をしたい方にもおすすめの環境と言えます。なにより、仕事で得た知識をそのまま自分の美容にも生かせるため、その点もやりがいに繋げられるでしょう。
美容外科看護師の大変に感じるところ
続いて、美容外科看護師の大変に感じるところはどのような部分でしょうか。
- 基本的な看護技術の習得が難しい
- 緊急時の対応力・判断力を身に付けにくい
- 自分の対応次第でクリニックの評判を落とす可能性がある
- 病院への転職が難しくなる
- 40代以降は働きにくい
美容外科では手術の手技以外では、基本的な看護技術しか経験できません。その基本的な看護技術も採血やバイタルサイン測定程度で、一般病院のように色々な経験はできません。
そのため、特に新人として入社すると、後の看護師人生で苦労する可能性が高いです。また、美容外科はその特性上、若い女性患者が多く、急変対応をすることはほとんどありません。
緊急時の対応力や臨機応変な判断力は身に付きにくく、外科病棟看護師のように要領よく働きたい方には不向きです。美容外科で長く働いていると、看護師のキャリアと認められないこともあります。
この場合、看護師としてのブランク期間と同じにみなされ、病院への転職が難しくなるでしょう。加えて、美容外科で働く看護師は多くが20代・30代であるため、40代以降での転職には不向きです。
採用される可能性もゼロではありませんが、若い看護師のようにいかない点は理解しておくべきです。
最後に、美容外科看護師は一人ひとりの責任が重く、クリニックの評判に直結します。自分の評判が悪いとクリニックの収益に影響するため、常に責任ある行動を求められます。
仕事で責任を負いたくないとお考えの方は、美容外科に不向きなタイプです。
まとめ:美容外科は経験の少ない看護師でも働きやすい
美容外科はある程度の実務経験さえあれば、特別な資格を持たなくても働きやすい診療科です。一般病院のように夜勤はなく、仕事での努力が給料にも結び付きやすい仕組みもあります。
看護経験は3年以上あれば十分ですから、若い看護師でも転職して働きやすいでしょう。手術経験もできることから、周手術期看護も身に付きやすいです。
反面で看護師としてのキャリアに反映しにくくなり、その後の転職で不利になる可能性もあります。美容外科へ転職する場合は、働きやすさと自分のキャリアとのバランスを把握し、自分にとって最適な職場を探してください。