患者さんの日常生活を支え、精神面でもリハビリを行う作業療法士。
本来はやりがいがあるはずの作業療法士ですが、辞めたいと思ってしまう理由はなんでしょうか。
「作業療法士として頑張っても、未来が見えない」
「作業療法士にやりがいを見いだせなくなった」
色々な理由で辞めたいと思うようになり、ネガティブな気持ちでさらに辞めたいと思うようになっている方も多いはずです。
では、他の作業療法士はどんな理由で辞めたいと考えているのか、退職するときの判断基準も気になる方がいるでしょう。
今回は作業療法士が辞めたい理由を解説し、退職を考えるときに振り返るべき判断基準を紹介します。退職を決断する前にやっておきたい対処法も解説しますから、ぜひ参考にしてみてください。
作業療法士の現場とは?
作業療法士はどのような現場で働いているのでしょうか。辞めたい理由を知る前に、作業療法士はどこで活躍しているのか見ていきます。
理学療法士とは活躍する分野が違うところもありますから、違いも意識して読んでみてください。
作業療法士は身体と心のリハビリを行う仕事
作業療法士は日常生活の応用的動作、例えば「食事」「入浴」「料理」「字を書く」「ものを掴む」などの動作や、社会活動への参加と就職に向けた適応能力の改善などを図るリハビリテーションの専門職です。
理学療法士は麻痺や障害で動作に障害がある方に対し、立つ・座るといった動作のリハビリを行いますが、作業療法士は「その人らしい日常生活」を送れるよう支援する仕事です。
そのため、身体的なリハビリも行いますが、精神科や認知症病棟における精神面のリハビリテーションも行います。作業療法士は理学療法士以上にコミュニケーション能力が求められます。
作業療法士が多く働く場所
作業療法士は医療機関をはじめ、多様な場所で働いています。
日本作業療法士協会の発表によると、58.9%が医療施設で働いていますが、他にも色々な施設で働いているというデータが出ていきます。
具体的には下記の施設で働く方が多いです。
- 身体障害者福祉法関連施設(身体障害者療護施設や訪問リハビリ等)
- 精神保健福祉法関連施設(精神病院等)
- 児童福祉法関連施設(知的障害児施設や児童養護施設等)
- 老人福祉法関連施設
- 障害者総合支援法関連施設
大きな分類ではありますが、作業療法士は多様な施設で働いており、特に福祉分野で大きな貢献をしていることがわかります。
身体・精神に障害を持つ子どもを対象とした施設でも必要とされており、理学療法士以上に活躍の場が多いです。
また、作業療法には専門の障害領域もあるため、個々の作業療法士が専門性に分かれてアプローチしやすい点も特徴です。
参考:日本作業療法士協会 『2019年 日本作業療法士協会会員統計資料』
作業療法士を辞めたくなる5つの理由
作業療法士が医療・福祉の分野で求められていると理解したところで、なぜ作業療法士を辞めたいと思うのか理由を見ていきましょう。
大きな5つの理由を紹介します。
1.目指していたリハビリを提供できない環境
作業療法の本質は身体機能の回復だけでなく、食事・入浴・着替え・料理などの日常生活動作、就労と社会復帰などのメンタルケアです。
作業療法は身体機能の回復だけでなく、患者さん一人ひとりの日常生活を取り戻し、機能を維持・改善する目的があります。
しかし、医療施設ではしばしば理学療法士と混同され、ストレッチや筋力回復などのアプローチを求められてしまいます。
作業療法士と理学療法士は明確に区分されていますが、患者さんだけでなく医療関係者からも要求されることで、悩みを抱えることが多いです。
こうした作業療法士として提供したいリハビリと、現実の仕事内容とのギャップに悩み、辞めたいと考えるケースが多いです。
2.指導してくれる先輩がいない
作業療法士は前述の通り色々な就職先があり、約4割は小規模な福祉施設や障害者支援施設などで働いています。
小さな施設では安定した仕事を送りやすいのですが、その反面で指導してくれる先輩がいないという難点もあります。
作業療法士としてスキルを磨きたいと考えても、適切な指導を受けられないことで悩むケースが多いです。
大規模な病院であっても、内部での人事異動や転職、退職が多く、スキルを磨く機会に恵まれない可能性があります。
また、指導者がいない施設で働くと、患者さんのリハビリに悩んでいても、適切なアドバイスをもらえない点も問題です。円滑に仕事を進めるアドバイスがもらえないことで、作業療法士を辞めたいと考える方が多いようです。
3.残業・仕事量が多い
働く現場にもよりますが、作業療法士の働き方はハードなことが知られています。日頃の患者さんへのリハビリだけが仕事ではなく、医療施設なら定期的な勉強会、作業療法士の研修会、研究発表、委員会活動などもあります。
特に研修や研究発表では資料作成も仕事に入り、患者さんのリハビリが終わってからも遅くまで残業し、情報を整理しなければなりません。
経験年数を重ねるごとに色々な役割や責任ある立場にもなるため、余計に仕事量が増えていきます。
仕事とプライベートな時間のバランスが崩れ、慢性的な疲労とストレスが蓄積し、辞めたいと感じる作業療法士が多いようです。
4.人間関係が悪い
作業療法士の職場はリハビリテーションルームとなることが多く、理学療法士や言語聴覚士とも同室になります。
閉鎖された空間で毎日の仕事をこなすため、スタッフ間のコミュニケーションは重要です。
しかし、中には相性の良くないスタッフがいるケースもあり、そうした人とも連携して仕事をしなければなりません。自身の感情を押しとどめて患者さんのリハビリをすることになるでしょう。
人間関係の悪さは円滑な仕事の妨げになるだけでなく、職場の雰囲気も悪くなっていきます。人間関係でストレスを抱え、辞めたくなる作業療法士も多いです。
5.給料が安い
作業療法士の給与は全国平均で362万8,000円となっており、他の国家資格を持つ医療者に比べてやや低い水準です。
看護師・臨床放射線技師・臨床検査技師は軒並み年収400万円を超えており、作業療法士とは40万円以上の差があります。
作業療法士は夜勤がない勤務形態である以上、結果的に安くなってしまうという背景もあります。もちろん、キャリアによって手当や昇給が期待でき、少しずつでも年収がアップしていくはずです。
しかし、給与は個人の努力だけで一気にアップするものではなく、施設によって上限も決まっています。
高い給与を目指すのであれば大手の病院や業績の良い医療法人に転職し、安定した生活を送りたいと考える作業療法士も多いです。
辞めたいと思ったときの判断基準は?
仕事を辞めたいと思ったときは、まず辞めたい理由を書き出してください。その理由を吟味し、本当に辞めるべきか否かの判断をします。
下記の判断基準で辞めたい理由を振り返り、辞めるか残るかを考えましょう。
- 自分の行動で解決できるか
- 時間の経過で解決できるか
- 転職しても同じことを繰り返さないか
- 仕事以外の問題はないか
- 身体的・精神的な負担はどのくらいか
自分の行動で解決できるか
仕事に不満があって辞めたいと考えた場合でも、行動次第で解決できるケースはあります。
例えば、予定通りにリハビリを進められないことや、残業や仕事量が多すぎること、人間関係などは、上司や同僚に相談することで解決できる可能性があります。
こうした問題は、スタッフ間のコミュニケーション不足が原因となっていることが多く、悩みを打ち明けることで改善策を見出しやすいからです。
一方で、残業代や有休を請求しにくい雰囲気、上司からのパワハラ・セクハラ、人員不足による多忙などの場合は、自分自身の行動では改善しにくい問題です。
作業療法士個人の問題と組織の問題とで切り分けて考え、「行動次第で解決できるかどうか」を判断基準にしてください。
時間の経過で解決できるか
仕事を辞めたいと思う原因には、仕事の経験不足や他職種連携が上手くいかないケースも考えられます。
こうしたケースでは、新人や経験年数の少ない若手が思い悩みやすく、経験を積むことで解決されることがあります。
経験を積むことで効率的な仕事の段取りがわかり、リハビリのコツも掴めてくるでしょう。今辞めたいと思う原因が経験不足から来る衝動であれば、そこを乗り越えることで仕事にやりがいが見つかるはずです。
一方、時間で解決されない問題であれば、退職の判断基準になります。
上司の方針で残業代や有休を取得しにくい、パワハラやセクハラなどの人間関係、教育制度の不足などは時間で解決する問題ではありません。
こうした問題は上司が変わるか、人事異動がなければ解決しにくく、組織の問題になるので時間で解決しにくいからです。
時間で解決できない問題で辞めたいほど思い悩むのであれば、早めに転職を視野に活動することをおすすめします。
転職しても同じことを繰り返さないか
辞めた後も別の施設で働く人がほとんどであると仮定すれば、転職後に同じ問題が起こるのであれば、退職すべきか一度考え直した方が良いでしょう。
例えば、人間関係を理由に退職するにしても、相性の良くない人がいて職場の雰囲気に耐えられない、といった理由なら考え直すべきです。
人間関係の問題はどこの職場でもついてまわり、多職種との連携が多い作業療法士にとっては必ずぶつかる壁だからです。
また作業療法士は経験年数と専門分野、スキルで転職市場での相場が変わりますが、単に給与面を理由に転職する場合も注意してください。
実際に転職したら思ったように収入が伸びず、かえって労働時間だけが増えるケースもあります。
今辞めたいと思っている職場よりも、どうしても他の職場は良く見えてしまうものです。落ち着いて辞めたい理由を振り返り、転職することで同じ問題を繰り返さないのであれば、転職すべき1つの基準になるでしょう。
仕事以外の問題はないか
辞めたいと思う理由が仕事だけでなく、家庭内の問題も影響していないか振り返ってみましょう。
家族の単身赴任で一緒に転居する方、育児や親の介護で忙しい方、怪我や病気で通勤が大変な方の場合、何らかの代替手段で解決できることがあります。
転居しても通勤は問題ない距離であったり、時短勤務を選んだり、家族に送迎してもらったりすることで解決可能です。しかし、通勤に2時間以上掛かるケースや介護で家にいなければならないケースであれば、退職という選択肢も仕方がありません。
家庭内の問題でも解決できる手段はあるか、負担を減らす方法はあるかを考えてみてください。解決策がない場合には退職の判断基準にすべきです。
身体的・精神的な負担はどのくらいか
問題解決ができる内容ばかりではなく、仕事量やストレス、人間関係などの解決に動いても、上手くいかない場合があります。その場合、自分の中に溜め込みすぎて、体調にも問題を来す人もいます。
一番に守るべきは自分の健康ですから、体調を崩してまで辞めずに我慢する必要はありません。
まずは家族、職場の上司や同僚にも相談し、それでも改善が見られなければ退職する判断は妥当です。
ストレスによる頻脈や不整脈、腹痛、頭痛など、何らかの症状で体に異変が現われるはずです。体調に異変を来すようなら、早期に退職の決断を下してください。
新人で辞めてしまうと色々なデメリットも
作業療法士の新人、いわゆる1年目で辞めてしまうと、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
よく聞くのが「スキル不足」「経験不足」ですが、それ以外のデメリットも解説します。
- 転職しても即戦力にならない
- すぐに辞める人と思われる
- 転職先を見つけにくい
上記がデメリットとして挙げられます。
スキル不足や経験不足もデメリットではありますが、実はそれほど大きな問題ではありません。むしろ、早い段階で転職することで、新しい職場からは第2新卒として見られ、他の新人と同じように教育と研修を受けられるからです。
スキル・経験不足よりも大きなデメリットが上記の3つです。
中途採用では「即戦力になる人物か」が重視される傾向にあり、その点で新人の転職は他の候補者よりも分が悪いでしょう。
加えて、早い段階で退職していることから、「すぐに辞めてしまうのでは」と心証が悪くなりやすいです。
結果として、転職先を見つけにくいというデメリットにも繋がります。しかし、きちんとした退職理由があり、目的を持って転職希望先に応募したのであれば問題はありません。
「人間関係」や「給料」といった理由での退職はネガティブな印象ですが、やりたいことがあっての転職ならむしろ歓迎されます。
新人時代だからこそ、どんどん知識とスキルを吸収できますから、積極的にアピールしてみてください。
辞めたいと思ったときの4つの対処法
作業療法士を辞めたいと思ったとき、退職を決断する前にできることは何があるのでしょうか。退職してしまう前にやっておきたい対処法を4つ紹介します。
異なる分野へと挑戦する
リハビリには4つのステージがあり、急性期、回復期、維持期、終末期に分かれています。
作業療法においてもそれぞれのステージがあり、専門性がそれぞれ異なっています。
加えて、作業療法には障害領域別に身体障害、精神障害、老年期障害、発達障害での分類があり、関わり方も違う点が特徴です。
仕事を辞めたいと思うのは、もしかするとステージと障害領域が自分に合ってないからかもしれません。
その場合には専門性を別の分野に切り替えると、全く違うやりがいを再発見できる可能性があります。
精神障害や発達障害は心へのアプローチがメインですが、身体障害は身体機能、老年期は心身ともにアプローチが必要です。
分野を変えることで新しい道が見えてくるはずです。
人間関係で距離感を意識する
仕事を辞めたくなる場合、作業療法に限らず多くの方が「人間関係」を理由に挙げます。しかし、人間関係は社会人として働くうえで切り離せず、どこかで再びぶつかることになる問題です。
人間関係に悩んでいる場合には、仕事上の関係と割り切って接することも大事です。
職場の中にはスタッフ同士の仲が良すぎて、一部の人が馴染めない空気を作っているところもしばしば見られます。
人間関係で悩んで辞めたいと思い詰めるなら、割り切って自分から距離を作ってもよいでしょう。
仕事はお友達同士で行うものではありませんから、仕事と割り切った関係の方がスムーズに進む場合も意外と多いです。
機能訓練指導員になる
機能訓練指導員とは、介護施設やデイサービス、訪問リハビリで利用者さんに機能訓練のアプローチをする仕事です。
介護分野でのリハビリのプロフェッショナルで、一定の要介護度の利用者に対し、日常生活の機能訓練を行います。
作業療法士以外にも看護師や柔道整復師、鍼灸師などの国家資格でも取得できますが、リハビリの専門家である作業療法士には最適な仕事です。
医療施設と違い、介護施設はゆったりと時間が流れることからコミュニケーションも取りやすく、一人ひとりに時間を掛けたリハビリを行うことができます。
転職を考える場合に、活躍できるフィールドを増やすために取得を目指してみてはいかがでしょうか。
転職エージェントに登録する
現在の職場を辞めたいと思っても、作業療法士は多忙すぎて転職活動を進めるのは時間的、体力的にも難しいはずです。
働きながら転職活動を進めるなら、医療職向けの転職エージェントに登録してみてください。
登録すれば転職先の希望条件をヒアリングし、担当アドバイザーがおすすめの職場を紹介してくれます。転職活動は自分で動く必要もほとんどありませんから、働きながら次の職場を探すのにも最適です。
日々多忙な業務をこなす作業療法士だからこそ、転職エージェントに登録しておくとスムーズに転職活動を進められます。
まとめ:どうしても辞めたいときは分野の違う施設へ転職する
作業療法士を辞めたい理由と退職の判断基準について解説しました。作業療法士という仕事はやりがいもありますが、苦労も多い仕事であると理解できたはずです。
最後に退職するか否かを決めるのは自身の決断ですが、どうしても辞める場合には別の分野に進むのも選択肢にしてみてください。作業療法はステージと障害領域に分かれており、施設によって専門性に特化しています。
現在の職場、領域にやりがいを感じにくくなっているなら、違う分野の施設に転職するとやりがいを見つけられるかもしれません。ご自身の提供したいリハビリは何か、患者さんにどのような医療を提供したいのか、一度振り返る機会を作ってみましょう。