【作:フクミーさん】
就職は基本的人権の「職業選択の自由」に守られ、ひとりの人間の人生を左右するひとつのターニングポイントです。
やりがいや生活の意義につながる就職に向け、多くの準備を費やし人生をかけて挑んでいる中、就職差別によって辛い思いをしている人は少なくありません。
採用において、いったいどのような就職差別の内容が潜んでいるのでしょうか。
今回は、就職差別の内容や具体例・対処法などについてご説明します。
就職差別の実態
就職活動や転職活動では、面接がひとつの関門です。
企業の採用担当者はあなたと企業が合うか、あなたがどんな人材なのかを把握するために様々な質問をしてきます。
しかしその中には差別につながるような質問内容もあることが報告されています。
2019年、日本労働組合総連合会によって報告された『就職差別に関する調査2019』を参考にしてみましょう。
2019年4月5日~4月10日の6日間、最近3年以内に就職のための採用試験(新卒採用試験、または中途採用試験)を受けた、全国の18歳~29歳の男女1,000名のアンケートが集計されました。
- 「応募書類やエントリーシートで『本籍地や出生地』の記入を求められた」56%
- 「採用選考で戸籍謄(抄)本の提出を求められた」19%
- 「採用選考で健康診断書の提出を求められた」49%
- 「就活で学歴フィルターを感じたことがある」40%
- 面接で個人情報を質問された経験率 「家族構成」39%「本籍地や出生地」32%
- 「採用試験の面接で不適切な質問や発言をされた」15%
- 「就活で男女差別を感じたことがある」28%
参照:日本労働組合総連合会 『就職差別に関する調査2019』
このように多くの求職者が就職差別を受けており、また恋人の有無や家族の職業、体形に関する発言など面接官による不適切発言が多数報告されています。
業務に関係のない質問が多く見受けられ、面接者自身も差別を感じながらも面接というシーンで反論もできていない状況が予想されます。
セクハラとも捉えられる不適切発言をした面接官に尋ねると、きっとこう言うでしょう。
「面接者の緊張をほぐしたかった」
「和やかな雰囲気で面接をしたかった」
本来であれば就職差別につながるような質問はしてはいけないのに、悪いことだと思っていない認識の低さが就職差別の根絶を妨げているのです。
男女雇用機会均等法によって性別を理由に募集や採用に係る差別は禁止されていますが、男女で採用職種や採用人数が異なっているなど、男女差別を経験された方もいらっしゃいます。
もちろんこのように採用職種や採用人数を性別で限定、出産や育児など女性に限定した質問などは男女雇用機会均等法違反です。
就職差別のない公正な採用選考とは?
厚生労働省やハローワークでは本人の適性や能力に関係のない内容により、採用の合否が決まらないように事業主に対して“公正な採用選考”の周知・啓発を行っています。
公正な採用選考の基本的な視点は2つ。
(以下引用)
・応募者に広く門戸を開く
同和関係者、難病のある人、LGBT等の性的マイノリティなどの特定の人を除外せず、求人条件に合致するすべての人が応募できるようにすること。
・本人のもつ適性・能力に基づいた基準による選考
応募してきた人が「求人職種の職務を遂行するにあたり、必要となる適性や能力をもっているか」ということを基準にして採用選考を行うこと
※職務内容によって、適性・能力を判断するのにどのような事項が適当であるかは異なりますが、「本人に責任のない事項」や「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」は、そもそも本人の適性・能力とは関係のないことです。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク(公共職業安定所) 公正な採用選考を目指して
簡単にいうと、基本的人権を尊重し「人」として見ましょうということです。
企業にも採用の自由が認められていますので、誰をどんなふうに採用しても自由です。
しかし、採用活動において本人の持つ適性・能力に関係のない事項や不合理なもので採用を決めるのは就職差別になります。
就職差別は、本人の努力でどうすることもできない事情で、内定獲得に向けて全力で取り組んでいる応募者のやる気を失わせます。
「スキルやキャリアが企業にとって不足していた」という不採用の理由であれば、諦めもつきますし、これからさらに頑張ろうと思えます。
しかし、性別や出身地、家族のことなどで採否が判断されてしまっては納得できませんよね。
就職差別の内容
就職活動や転職活動の面接は内定獲得に大きく影響するシーンです。
どうしても応募者は企業よりも弱い立場となり、就職差別に対して心は傷付きながらも黙認せざるを得ません。
しかし採用活動において就職差別に関する禁止事項は法律で定められている、ということをご存じでしょうか?
それは労働における基本的な法律となる『職業安定法』(職安法)です。
職業安定法第5条の4及び平成11年告示第141号では社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などの収集は原則として認められません。
(以下引用)
就職差別につながるおそれがある具体的事項として、
・適性・能力に関係のない事項「本人に責任のない事項や、本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」を、エントリーシート・応募用紙・面接・作文などによって把握すること
・身元調査・合理的必要性のない採用選考時の健康診断を実施すること
など14事項があげられています。
引用:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク(公共職業安定所) 公正な採用選考を目指して
では、どのようなことが採用選考時のタブーなのか、就職差別につながるのか14の項目をみていきましょう。
就職差別につながる14項目
採用選考時の就職差別につながる質問は以下の14項目に分けられています。
- 戸籍謄(抄)本の提出
- 社用紙(企業独自のもの)の使用
- 身元(家庭)調査
- 家族の職業、家族の続柄、家族の健康
- 家族の地位、学歴、収入
- 家族の資産
- 住居状況(部屋数、間取り等)
- 宗教
- 支持政党
- 生活信条
- 尊敬する人物
- 思想
- 本籍、生まれ育った場所
- 生活環境に関する作文(生い立ち、私の家庭、父・母を語るなど)
本籍や出生地などは本人に責任のない事項、どれだけ努力しても覆らない事項です。
また、家族の職種や勤務先、家族構成も本人の仕事とは関係ない事柄ですが、出身地域や家族構成を聞き採否を判断。
そして転勤の有無や自宅から勤務先までの通勤経路などを質問するときに、自宅に関する個人情報(間取りや住宅の種類、近郊の施設など)を聞かれるケースがあります。
これらは就職差別に留まらず部落差別(同和問題)につながる社会的差別であり、人権侵害です。
本人のプライバシーに関した質問はNG
本人の生活や思想は憲法第 19 条「思想及び良心の自由」で保障されている権利です。
仕事は生活の一部ですが、私生活でのプライバシーの自由は守られなければいけません。
そのため業務と関係のない事項は全てNGなのです。
例えば結婚や出産に関することや子供ができたら仕事は続けるかどうか、といった質問は聞くべきではない質問ですし女性へのハラスメントとも捉えられます。
企業がこれらの就職差別にあたる違反したときは
・職業安定法に基づく改善命令を発出
・改善命令に違反した場合は、罰則(6ヶ月以下の懲役又は30 万円以下の罰金)が科せられる場合がある
と定められています。
損害賠償請求訴訟を起こされる可能性もあるだけでなく、「就職差別を行った」「採用コンプライアンスが低い」企業として、企業全体の評判にも影響を与えます。
企業の評判は、これからの応募者の減少や株価にも影響を与え大きな損害を被ることになるでしょう。
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就職差別の具体例
2019年、日本労働組合総連合会の『就職差別に関する調査2019』では、企業による就職差別の実態も明らかになりましたが、面接をされる側の就職差別への認識率が低いケースもみられました。
“面接官が聞いてはいけない質問”についての認識率では、「宗教」(66.5%)が最も高く、次いで、「支持政党」(61.9%)、「家族の職業・収入」(52.6%)となり、最も低いのは「尊敬する人物」(12.9%)。
「あてはまるものはない」と答えた方は約16%いらっしゃいます。
参照:日本労働組合総連合会 『就職差別に関する調査2019』
就職差別にあたる質問がどのようなものか把握していない方や聞いてはいけない質問があることを知らない方も見受けられ、就職差別に抑止力が働きにくい要因のひとつとなっているのではないでしょうか。
では、就職差別につながるおそれがある具体例についてみていきましょう。
具体例1(24歳男性)
面接で「家族はどんな仕事をしているのか?」と質問され、素直に答えた。
「全く違う業界なのに、なぜ応募したのか?」と言われた。
応募者の仕事と家族の職業は関係ないにも関わらず質問することは、就職差別につながります。家族がどんな仕事をしていても、好きな職業を選択する自由があります。
具体例2(25歳女性)
「女性がお茶汲みや掃除をするのはどう感じるか?」と質問され、その場でできる人がすればいいと思いますと答えた。
面接担当者は「君にやってもらいたいなぁ」と言われ、お出ししますと答えたら恋人の有無を尋ねられた。
また、いないと答えると「どれくらいいないのか?」と聞かれた。
男女雇用機会均等法違反や女性へのセクハラにつながり、女性のキャリア構築や能力を発揮するチャンスを奪う質問内容です。また、面接者が男女いたにも関わらず男性にしか質問をしないケースや性別で業務内容が異なることも禁止されている事項です。
具体例3(30歳男性)
転職活動中の面接にて、「うちの仕事は体力が基本だ、そんな体でできるのか?」「採用してもすぐに辞めるのだろう」と言われた。
体力に自信があることや入社意欲を伝えるも「そんなに太っていたら動けないだろう」といわれた。
体形だけでなく病歴やアレルギー、血液型や星座などは、職務遂行に関係ない事柄です。特定の人を排除してしまうおそれにつながるため身体等に関する質問はNGとされています。
具体例4(22歳男性)
「自宅は〇〇市となっているが、近くにどんな建物があるか?」と尋ねられ、自宅近くにA公園があることを伝えた。
「通勤が不便だけど大丈夫?高級住宅地の中にある家なんだから働かなくても大丈夫じゃないの?」と言われた。
通勤方法について尋ねようとしながらも、住宅環境や生活水準などに及ぶ質問となっています。仕事とは関係がなく、プライバシーに関わる就職差別の事例です。
具体例5(23歳女性)
面接が始まった際「聞いたらダメな質問って知ってる?どんなことか分かる?」と聞かれた。
あらかじめインターネットで就職差別について調べていたので、男女雇用機会均等法に違反する内容や宗教や信条、プライベートに関する質問だと答えた。
すると面接担当者から「一緒に働くつもりなのでもっと君のことが知りたいと思う」「違反質問するかもしれないけど大丈夫かな」と言われた。
その後、家族構成や家族の職業、居住環境、出産後の仕事について質問された。
企業側は違反質問と理解しながら、面接者に就職差別に関する質問をしています。“一緒に働く”と言われたら内定獲得を期待して、話したくないことやプライバシーに関することもつい話してしまう、「NO」と言えない面接者の心情を無にする質問です。
就職差別を受けたら…?泣き寝入りしない対処法
就職差別の内容や具体例についてお伝えしましたが、「もしかして就職差別受けていたかも?」と気づいた方もいらっしゃるかと思います。
就職差別の内容は多岐に渡り、応募者や労働者だけでなく企業側も違反をしていると、気づいていないケースが少なくありません。
例えば、古い企業体質の会社では「女性や男性はこうあるべき」といった固定概念や家族企業では「社員はみんな家族」といった、押し付け傾向が目立ちます。
このような企業と遭遇しても、内定獲得を目指す求職者は就職差別を受けながらも我慢するしかないというケースが少なくありません。
では就職差別に対する対処をみてみましょう。
不採用の理由を確認する
「就職差別で不採用になったかもしれない」「このまま泣き寝入りしたくない」と感じた方は、まず企業に対して不採用の理由を確認します。
なぜなら就職差別については応募者、労働者側が違法性を証明しなければいけないので、証拠集めを行います。
企業側は開示を拒否するケースが多いですが、例えば面接官が言ったことや採用面接のシーンで起こった事柄など具体的な例を伝え開示を求めましょう。
今後労働裁判などを検討している場合は、口頭ではなく内容証明で通知するのもひとつの方法です。
就職差別について相談する
就職差別を受けた場合や該当する事柄か不安な方は、最寄りのハローワーク(公共職業安定所)や都道府県労働局へ相談してみましょう。
参照:都道府県労働局
いずれも労働に関する相談機関です。
不適切な事案や就職差別につながる質問などがあった場合は、ハローワークと労働局が連携し迅速な事実確認及び的確な事業所指導を実施しています。
まだ学生で新卒採用を受ける際に不当な扱いを受けたという方は、大学のキャリアセンターや就職課に相談することをおすすめします。
弁護士に相談
就職差別で不採用となった場合、不当なケースであると証明することは難しく、企業側には採用の自由があるため内定や採用につなげるのは難しいでしょう。
将来のキャリアを絶たれた、精神的苦痛を負ったという場合は慰謝料請求を行うことができます。
就職差別は不法行為であり、それに伴う実損があるなら慰謝料とともに損害賠償請求も行えますので、不当な扱いを受け納得できない場合は弁護士に相談してみましょう。
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【まとめ】就職差別への理解を深め被害を防ごう
いかがでしたでしょうか?
今回は就職差別の内容や具体例、対処法などについて説明しました。
自分の努力で解決されない問題について差別がされ、不採用や内定取り消しなど不当な扱いを受けるのは法律上許されることではありません。
しかしながら紹介したような就職差別が残り、辛い思いをしている方がいるのも事実です。
本人の能力と関係のない事柄で採用の可否が決まり、将来が左右される就職差別。
これをなくしていくためには企業側、労働者側ともに就職差別の知識や理解を深めることが大切です。
また、“就職差別するようなブラック企業” であると捉え、今後の就職活動を前向きに進めていこうと気持ちを切り合えることも大切です。
応募する企業が就職差別のある企業か確認することも、就職差別を未然に防ぐために効果的です。
転職エージェントやキャリアセンターなどで就職・転職のプロに相談することも一つの方法です。
以前採用時の定番質問であった「尊敬する人物は?」についても、今や就職差別につながるおそれがある質問とされています。
時代とともに情報をアップデートし、応募者側が就職差別への知識を深めることも必要でしょう。 就職活動・転職活動をする中で就職差別を受けた、不当な扱いを受けたという方は適切な機関へ相談、場合によっては慰謝料・損害賠償請求することができることを覚えておきましょう。
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