終身雇用制度の崩壊、働き方の多様化と労働環境が激変する現在、キャリアコンサルタント(国家資格)が注目されています。
今回、2年前に「キャリアコンサルタント」で自立する方法(合同フォレスト)を商業出版した現役キャリアコンサルタント佐渡治彦さんに「キャリアコンサルタントになるには?」を解説してもらいます。この本は、キャリアコンサルタントになりたい方、関心のある方にはお薦めの1冊と言われています。
佐渡さんは、営業出身で約10年前に、まだ民間資格であった時代のキャリアコンサルタント資格を取得した後、国家資格に登録しました。
一般企業、人材会社、ハローワークなどでの豊富なキャリアコンサルティング経験があり、今回の記事は役に立つ情報だと思います。
- カリエーレ・コンサルタンツ(Karriere Consultants)代表
- 一般社団法人カリエーレ・コムサ(Karriere Comme ca)代表理事
- 名古屋商工会議所会員
- MCC東海会員
・HITACHI系商社、ドイツ系企業にて開発営業プロジェクトマネージャー、採用の経験有。
・労働局ジョブ・カード作成支援推進事業責任者、なごやキャリア・コンサルティングセンター事業運営責任者に従事。上場企業管理職からニート・フリーターまで、幅広いキャリアコンサルティングを実施。セルフ・キャリアドック制度(企業領域キャリアコンサルタント)助成金を活用し中小企業を中心に100社以上に導入。教育訓練助成金等を活用した企業に対するキャリアコンサルティングを実施。
・2020年合同フォレストより出版された著書『「キャリアコンサルタント」で自立する方法』は、全国大手書店、AmazonなどNetでも販売。堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログ人気ランキング1位を獲得。
主な活動エリア
東名阪エリア
資格
2011年11月 DBMマスター・キャリアカウンセラー資格取得
2016年5月 キャリアコンサルタント国家資格取得
運営サイト
https://karriere-consultants.com/
著書
キャリアコンサルタント(国家資格)を取得するには?
キャリアコンサルタント資格が国家資格に昇格した背景
現在、日本の労働環境は大きな転換期を迎えています。
街のコンビニで外国人スタッフを見かけない日はありません。少子高齢化、IT・AI化、働き方改革、女性活躍推進、人生100時代、終身雇用制度崩壊等と労働環境の話題も耳にしない日はありません。また、コロナ禍により、在宅勤務、オンラインの普及など仕事の取り組み方も変化しています。
このような時代に「キャリアコンサルタント」は2016年4月に国家資格(標準レベル)になりました。
それまでキャリアコンサルタントは民間資格として存在していました。いくつもの民間の団体がそれぞれキャリアカウンセラー、キャリアアドバイザー等の名称で資格を発行してきました。
それが、職業能力開発促進法の改正により、キャリアコンサルタント登録制度が創設されました。国家資格に昇格したのです。
そして、現在、厚生労働省は2024年までに「キャリアコンサルタント養成10万人計画」を掲げています。
現在は、キャリアコンサルタント登録者数は約6万人と言われています。厚生労働省の目標も残り2年を切りました。このまま順調に推移していくのかが注目されます。
また、キャリアコンサルタントの登録を継続するには5年ごとに更新手続が必要です。更新するためには所定の講座等を受講しなければなりません。
受験資格
それでは、キャリアコンサルタント資格を取得するには、どのような条件があるかを説明しましょう。
キャリアコンサルタント国家試験は、次のいずれかの要件を満たした方が受験できます。
- 厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了した者
- 労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力開発及び向上のいずれかに関する相談に関し3年以上の経験を有する者
- 技能検定キャリアコンサルティング職種の学科試験又は実技試験に合格した者
- 上記の項目と同等以上の能力を有する者
(厚生労働省ホームぺージより)
実務者経験以外の一般の方は、厚生労働大臣認定の養成講座のいずれかを受講しなければなりません。
150時間以上のカリキュラムで、通学、通信教育もあり期間は、3~6か月が一般的です。費用は各団体で違いますが、おおよそ30万円位です。
2022年4月1日時点の厚生労働省の発表では、次の21講習が認定されています。
各団体で設定が違いますので、詳細はホームページ等で調べてみて下さい。
厚生労働大臣が認定する講習一覧
- ヒューマンアカデミー株式会社 キャリアコンサルタント養成講座
- 株式会社リカレント キャリアコンサルタント養成講座
- 株式会社リカレント キャリアコンサルタント養成ライブ通信講座
- 株式会社日本マンパワー キャリアコンサルタント養成講座(総合)
- 特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会 GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム
- 株式会社テクノファ キャリアコンサルタント養成講座
- 株式会社東京リーガルマインド LEC 東京リ-ガルマインドキャリアコンサルタント養成講座
- 特定非営利活動法人日本キャリア・マネージメント・カウンセラー協会 CMCAキャリアコンサルタント養成講習
- テンプスタッフ GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム(GCDF)
- 有限会社キャリアサポーター ICDSキャリアコンサルタント養成講座
- 一般社団法人日本産業カウンセラー協会 一般社団法人日本産業カウンセラー協会キャリアコンサルタント養成講習(JAICO)
- 公益財団法人関西カウンセリングセンター 公益財団法人関西カウンセリングセンターキャリアコンサルタント養成講習
- 公益財団法人日本生産性本部 公益財団法人日本生産性本部キャリアコンサルタント養成講座
- 公益財団法人関西生産性本部 公益財団法人関西生産性本部キャリアコンサルタント養成講座
- 学校法人大原学園キャリアコンサルタント(通学・通信)養成講習
- パソナ 100 年キャリア講座キャリアコンサルタント養成講習
- 一般社団法人地域連携プラットホーム キャリアコンサルタント養成講習
- 特定非営利活動法人日本カウンセリングカレッジ NCCPキャリアコンサルタント養成講習
- 株式会社キャリアドライブ トータルリレイション キャリアコ ンサルタント養成講習
- 株式会社グローバルテクノ キャリアコンサルタント養成講座 ※
- 株式会社労働調査会 キャリアコンサルタント養成講座
(詳細は厚生労働大臣が認定する講習をご覧ください。)
キャリアコンサルタントになりたい方やキャリアコンサルタントのためのキャリアコンサルタント講習検索サイト(厚生労働省)で最新の養成講座や厚生労働大臣が認定・指定するキャリアコンサルタントに係る講習の検索ができますのでご参考にしてみて下さい。
試験実施団体は2団体
国家資格試験は、厚生労働省から指定を受けた2試験実施団体によって行われます。「特定非営利活動法人日本キャリア開発協会」と「特定非営利活動法人キャリアキャリアコンサルティング協議会」です。
このように国家資格試験で試験実施団体が2つあるのは、極めて珍しいです。
なぜ2団体あるのかと言うと、キャリアコンサルタント資格が国家資格に昇格した当時、民間資格団体で養成講習実施開催数が日本で一番の日本マンパワーが他の団体と違った独自路線を取ったためです。日本マンパワーが実質、特定非営利活動法人日本キャリア開発協会を運営しています。
どちらかの国家試験に合格して国が指定した登録機関にしなければ「キャリアコンサルタント」と名乗れなくなりました。
「キャリアコンサルタント」でない者がキャリアコンサルタントと名乗ったり、紛らわしい名称を用いた場合には、30万円以下の罰金に処されます。業務に関しては守秘義務が規定されています。
- 国家資格キャリアコンサルタント
一般の人が、キャリアコンサルタント資格を取得するには、養成講習を受けなければなりません。現在、養成講習は、厚生労働省から21団体が認定を受けています。説明会に参加するなどをして、自分に合った団体を選びましょう。また、現在、厚生労働省に専門実践教育訓練に指定された講習ならば、最大70%の給付金が支給され、実質、約10万円の費用で済みます。詳しくは、労働局、ハローワークにお問い合わせください。
キャリアコンサルタントに必要な素質・適性
「時間・やる気・お金」が必要
国家資格と言うと皆さんは、どんなイメージを持たれるでしょうか?
難関国家資格と言われる医師、弁護士、公認会計士等は、子どもの頃から優秀で毎日、勉強しなければならないので、自分とは縁のないものと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、キャリアコンサルタント資格は、一言で言いますと「時間・やる気・お金」さえあれば誰でも取得できる可能性が高い資格です。
もちろん、学科試験に合格するにはキャリアコンサルティングの社会的意義、理論、職業促進開発促進法等関係法令、実務、倫理、行動等勉強する必要があります。現代は、リカレント教育が叫ばれています。
つまり、学生時代に勉強してこなかった方にも、この国家資格でやり直しの勉強をして、新たな道が開けるのです。
実施試験には論述試験と面接試験があります。ですので、勉強はしなければ合格しません。ただ、養成講習を真面目に受講し過去問題を解いて、やる気があるならば、学科試験は合格できると思います。
論述試験、面接試験については、試験対策が必要です。しかし、この対策についてもそれほど心配する必要はないと思います。養成講習で同じ目標を持つ仲間もできますし情報交換もされるので、これもやる気があれば合格できると思います。
ただ、最近は、キャリアコンサルタントの国家資格は簡単だというイメージが広まったのでしょうか、年々、難しくなっていると言われています。油断は禁物です。合格率は平均して50~70%位です。
傾聴のできる人、少しおせっかいな人向き
それでは、どのような人がキャリアコンサルタントに向いているのでしょうか?
キャリアコンサルティングの基本は、相談者を温かく受容し誠実に接し、心から尊重して相談者の気持ちや感情をあたかも自分自身のことのように共感することです。
相手の気持ちを自分のことのように捉え、親身になって相談相手になり、気づきを与え、次への一歩を踏み出してもらう役割があります。
こうしたキャリアコンサルティングを行うには、養成講習でも学びますが「傾聴」が不可欠です。人の話によく耳を傾けることのできる人でなければ、キャリアコンサルタントになれません。
また、困っている人を何とかしてあげたいという気持ちの強い人、少しおせっかいな人が向いているかもしれません。
実務経験は必要か?
これまで、何百人ものキャリアコンサルタントと交流があります。私の印象では、キャリアコンサルタント資格者は、人事・総務系、教育系、介護系の業務に携わっていた人たちが多いようです。
これらの業務は、人と接する機会も多いですし、相談役になることも多いでしょう。そのような経験、知識があれば有利に働くかもしれません。
ただ、私のように営業出身のキャリアコンサルタントもいます。最近は、営業出身のキャリアコンサルタントも珍しくはないのですが、私が資格を取得した頃は、珍しがられました。もちろん、営業は人とも接しますので、親和性はあります。
最近は、技術系出身者のキャリアコンサルタントも活躍しています。
実務経験はあればあったに越したことはありませんが、絶対条件ではないと思います。人と関わることに抵抗が少ない人ならば、大丈夫だと思います。
- 国家資格キャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントは、人相手の仕事です。最近は、オンライン、SNSでのキャリアコンサルティングも普及しています。また、将来は、キャリアコンサルティングはAI、VRに取って代るだろうという人もいます。しかし私は、原則、対面のキャリアコンサルティングが一番、有効であると思います。なぜなら、相談者の顔を見ながらですと、その人のしぐさ、態度、表情、話し方で感情が直に伝わりやすいからです。
キャリアコンサルタントの現状
キャリアコンサルタントの領域
それでは次に、キャリアコンサルタントは、どのような領域で活動しているかを説明します。
図―1(独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書」)で分かりますように、
最も活動可能な領域で多かったのは、「企業」で70.2%、以下、「需給調整機関」(派遣、ハローワーク、転職・再就職支援)68.2%、「学校・教育機関」(キャリア教育、キャリアセンター)66.1%と続きます。
実際に主に活動している場で最も多かったのも「企業」で34.2%、以下、「需給調整機関」(派遣、ハローワーク、転職・再就職支援)20.2%、「学校・教育機関」(キャリア教育、キャリアセンター)17.2%と続いています。
その他の活動の場としては、「医療・福祉領域」「職業訓練校」「公共職業訓練」「NPO」等での就労支援・職業相談、「個人」対象への相談業務、「地域」でのボランティア的要素を含んだ仕事等が挙げられます。
以上のことから、企業でのキャリコンサルティングのニーズが、一番多いことが分かりますが、多方面で多様な役割があります。
図―1 キャリアコンサルタントの主な活動の場
労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書」2018年より
キャリアコンサルタントの就労状況
続きまして、就労状況について述べます。
図―2(独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書」)から見ても分かりますように、最も多いのは「正社員」38.9%、以下、「非正規社員」28.8%、「キャリアコンサルタントとしてフリー・自営」10.9%と続きます。
「正社員」では、民間企業で人事・総務部等で「企業内キャリアコンサルタント」として専門で働く人もいますし、別の仕事との兼務で働かれている人もいます。人材紹介会社等でも正社員として、「人材コーディネーター」として働く場合もあります。ハローワーク等の公共機関では、有期雇用で働くケースが多いです。
「キャリアコンサルタントとしてフリー・自営」は、民間企業や公共機関からキャリアコンサルティング、就職、自己啓発セミナー等を委託されるケースが多いです。
図―2現在の就労状況(単一回答)
労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書」2018年より
キャリアコンサルタントの年収
次に、キャリアコンサルタントの収入について述べます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書」2018年によりますと、最も多いのは、「200~400万円未満」33.3%、以下、「400~600万円未満」21.5%、「600~800万円未満」13.6%、「200万円未満」13.6%と続きます。「1000万円」以上は合計で7.9%います。
民間企業で人事・総務部で働く正社員のキャリアコンサルタントは、固定給制であったり、人材紹介会社で働く方は、求職者を就職決定した時に支払われる出来高を支払われるケースがあります。ハローワーク等の公共機関でキャリアコンサルタントの専門職で働く場合は、有期雇用が多く月給20万~30万円位が一般的です。
キャリアコンサルタントしてフリーで働く場合は、その人の腕次第です。企業の顧問キャリアコンサルタント契約を結ぶ人、セミナー講師で1回何十万の講師料を得る人もいます。また、経営、人材コンサルタント契約等を結び年収1000万円以上の人もいます。
どのような働き方をして、どれだけ収入を得るかは、各々の考え方、価値観により、キャリアコンサルタントの活動の仕方によって、変わってきます。ご自身のワーク・ライフ・バランスと相談して実行してみて下さい。
- 国家資格キャリアコンサルタント
現在、キャリアコンサルタントは企業などの組織で働いている人が多いです。 また、収入も年収400万円くらいが多いようです。まだまだ、他の国家資格のように社会的認知も高くなく、キャリアコンサルタントだけで生計を立てていくことはは、厳しいかもしれません。 しかし、どの国家資格でも、その資格をどう活かして、収入に結びつけるかは、その人の腕次第だと思います。 キャリアコンサルタント資格でもやりようによっては、道は開けると思います。
まとめ
キャリアコンサルタントが国家資格となり、今年で6年が経ちます。
現在、資格者は約6万人です。厚生労働省の2024年までの目標である「キャリアコンサルタント養成10万人計画」には、残り2年弱となりました。
今が、給付金が支給される専門実践教育訓練を活用できるラストチャンスかもしれません。(来期以降、給付金があるかどうかは現在では、分からないという意味です)
国家資格昇格後、世間では「食えない国家資格の代名詞」との悪評も耳にします。まだまだ、社会での認知度も低く、独立してキャリアコンサルタントだけで生計を立てている人たちは、少ないかもしれません。
しかし、キャリアコンサルタント資格で学ぶ理論、技法などは、日常生活、仕事などで必要になる問題解決能力が身に付きます。
また、今後、日本は終身雇用制度の崩壊が進み、将来に不安を持ち、迷える人たちは増加していくことが予想されます。一方、人生100年時代と言われる現代、企業など組織では、「キャリア」のスペシャリストとしての活躍の場はこれからますます増えると思います。
現に、大手企業ではセルフ・キャリアドック制度(企業領域キャリアコンサルタント)を導入する企業が増えてきました。
独立して自分で生計を立てていこうと思う人たちには、自分の腕次第で収入も得られます。
資格取得には「時間・やる気・お金」が必要ですが、受験を迷われている人には、是非、勉強してみることをお勧めします。勉強しておいて、将来、決して損はないと思います。例え、残念ながら、合格出来なかったとしても、キャリアコンサルタントの勉強で学んだことは、今後の人生に活かせると思います。
また、昨今、話題になるSDGsやLGBTQの課題にも取り組める可能性を含んでいます。
もっとレベルの高い勉強を取り組みたい方は、「キャリアコンサルティング技能士」もお勧めします。1級は指導レベル、2級は熟練レベルです。
まずは、標準レベルのキャリアコンサルタント資格取得に向け、がんばってみませんか!