日本の高齢化と在宅医療への移行が進む中で、訪問看護師の需要は年々増加しています。全国訪問看護事業協会によると、令和3年4月1日には訪問看護ステーション数は1万3,003事業所だったものが、令和4年4月1日には1万4,304事業所にまで増えています。(*)
今回は、全国的に訪問看護師の需要が高まる中で、訪問看護師がどんな役割を果たしているのか、1日のスケジュール例などを詳しく見ていきましょう。元看護師の筆者が実際に見てきた訪問看護ステーションや体験談、必要なスキルなどを解説します。
*参考:一般社団法人全国訪問看護事業協会 『令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果』
訪問看護師の役割とは
訪問看護師の役割とは何か、どんな仕事があるのかご紹介します。
患者様の異常や体調変化の早期発見
訪問看護師の仕事で代表的なものが、患者様の自宅を訪問した際の健康状態の確認です。いわゆる血圧・体温・脈拍などのバイタルサイン測定のほか、前回訪問から今回訪問までに体調の変化はなかったか、持病の問診なども行います。
訪問看護師は医師に変わって患者様の様子を確認し、わずかな変化も伝える役割があります。そのため、体調確認も細かなところまでしっかり行い、できる限り詳細な記録としてカルテに残さなければなりません。
医師の指示書に基づいて処置を行う
看護師の医療行為は医師の指示の下で行うことが原則であり、訪問看護師も同じ原則に従います。医師の処方する訪問看護指示書には、点滴や各種カテーテル管理、服薬管理、人工呼吸器管理、胃ろうの処置など様々な内容があります。
訪問看護師は医師の指示書に従い、訪問時間内に手際よく実施しなければなりません。訪問看護師は特別な事情のある患者様を除き、基本的に1人で訪問し処置を行います。
医師の指示書に従うのは当然ですが、患者様に変化があれば逐一医師に報告し、必要な指示を仰ぐことも重要な役割です。
患者様とその家族の療養生活のサポート
訪問看護を利用する患者様と家族の背景は様々で、がんによる終末期の方もいれば、脳性麻痺などで受診が難しい小児の方もいます。訪問看護師は在宅で過ごす患者様と家族の生活を医療面から支え、安全・安心な生活をサポートすることも役割です。
サポート内容は点滴や処置などの医療的ケアだけでなく、寝たきりの方の体位変換、ベッドから車椅子への移乗、食事・排泄介助など様々です。入院病棟で行っている患者様へのケアの延長線に、在宅での看護もあると考えるとよいでしょう。
医療機関と患者様との橋渡し役
在宅で療養する患者様は、入院病棟のように異常の早期発見が難しい立場にあります。家族も医療知識のない方がほとんどであり、身近で頼りにできる医療関係者は訪問看護師だけです。
そのため、訪問看護師は決まった訪問日だけでなく、体調の変化に応じて訪問を早める必要もあります。そして、訪問看護で対応が難しいと判断した場合、医師に報告して医療機関への受診を進めることもあります。
訪問看護師は患者様を間近で見る機会が多いからこそ、医療機関との橋渡しの役割を求められるでしょう。
コメディカルで治療を相談
訪問看護師は在宅で医療を提供する特性上、現場では自分の判断が重要になります。しかし、在宅での療養を看護師だけで支えるのは困難です。
在宅療養を支えているサービスは、ヘルパーや社会福祉協議会、訪問リハビリなどもあります。訪問看護だけでは気付けない小さな変化、家族関係などを他のサービスが把握していることも珍しくありません。
そのため、訪問看護師は医療機関内だけでなく、在宅療養に関係する介護・福祉サービスとも連携し、必要な看護を提供していくのが大切な役割です。
訪問看護師の提供する看護とは
訪問看護師の提供する看護について、日本訪問看護財団は次のものを公表しています。
- 健康状態のアセスメント
- 日常生活の支援
- 心理的な支援
- 家族等介護者の相談・助言
- 医療的ケア
- 病状悪化の防止(予防的看護)
- 入退院時の支援
- 社会資源の活用支援
- エンドオブライフケア
この他にも、様々な病気や症状を抱える方への看護が挙げられています。また、訪問看護師は医療的ケアを行うだけでなく、精神的・社会的な面からも支援を行う必要があることがわかります。
患者様本人だけでなく、身近で介護する家族への支援を行っている点も重要なポイントです。訪問看護は医療保険を利用して週1~3回、介護保険でも支給限度額内に収めるなら週1~2回が限度です。
1回の訪問は最大でも90分という制限があり、訪問看護師ができる看護にはどうしても限界があります。そのため、家族に正しい処置の方法や医療知識をアドバイスすることで、患者様の療養生活を充実させることも重要な看護です。
参考:日本訪問看護財団 『訪問看護とは(医療・福祉関係者向け)』
訪問看護師の1日のスケジュール例
訪問看護師の1日のスケジュール例をご紹介します。
1日のスケジュール |
8:30 出勤・ミーティング 9:00 患者様の自宅へ訪問(午前中は1~2件) 12:00 昼休憩 13:00 患者様の自宅へ訪問(午後は2~3件) 16:00 訪問看護ステーションで記録・整理、医師への報告 16:30 ミーティング 17:00 退勤 |
大まかなスケジュールになりますが、一般的にはこのような予定で進みます。訪問看護ステーションによって、移動方法は電車・自転車・自動車など様々です。
自動車を利用する訪問看護ステーションでは、30㎞以上離れた自宅を訪問することもあります。訪問看護師は移動時間まで考慮して、早めに行動するのが基本です。
訪問看護師の体験談や得られたもの
訪問看護師の実際の体験談、訪問看護師になった方の体験談などをご紹介します。
在宅で最期の時間を送れるように支援を実施
訪問看護を利用される患者様の中には、末期がんやALS(筋萎縮性側索硬化症)で余命わずかな方もいます。患者様と家族の「最期は自宅で」という思いを叶えるために、訪問看護師が支援を行うことも少なくありません。
筆者の職場にいた訪問看護師も、ALSで余命わずかと宣告された方と家族のために、緊急時の連絡先やヘルパーと病院の連携体制を整備していました。
また、患者様が亡くなった時の対応を主治医・家族も交えて相談し、在宅で看取りができるようできる限りに支援していました。
患者様が亡くなった後、ご家族は感謝を伝えるために訪問看護師のもとを訪れ、患者様本人も満足のできる最期だったことを伝えてくれたそうです。
復職先として訪問看護を選択
訪問看護は通常の医療機関とは異なり、ほぼ決まった時間に自宅へと訪問し、ケアを提供するのが仕事の特徴です。また、仕事時間には移動時間も含まれているため、離職後の復職先として訪問看護を選ぶ人も珍しくありません。
復職先に訪問看護を選択し、短時間勤務からスタートする看護師もいます。訪問看護事業者は全国的に増加しているため、短時間勤務でも働いてくれる看護師はありがたい存在です。
短時間から働き始め、最終的にフルタイムへと移行した訪問看護師の成功例も多いです。
病院を退職して訪問看護ステーションを立ち上げ
病院での看護師経験から、退職して自ら訪問看護ステーションを立ち上げた方の体験談もあります。もともと総合病院で長年勤務しており、終末期患者様の看護や訪問看護を経験し、訪問看護ステーションを立ち上げた看護師の体験談です。
訪問看護ステーションの立ち上げには、常勤看護師2.5名以上を確保しなければなりません。そのため、その看護師は地域医療に対して同じ志を持つ元同僚の看護師を自らスカウトし、立ち上げへと漕ぎつけました。
そして、以前勤めていた病院とも連携し、訪問看護師として地域医療に貢献しています。
訪問看護ならではのメリット
訪問看護でどのような経験、学びが得られるのか具体的な内容をご紹介します。
地域密着型医療を実践できる
訪問看護は一定規模の病院に併設してあるケースや、訪問看護事業所として独立しているケースが多いです。そして、訪問看護の役割は地域住民の療養生活を支援することであり、地域密着型医療を提供できる点が特徴です。
病院では院内で医療が完結しますが、在宅医療は病院・看護師・福祉施設・ヘルパーなどが協力して提供していきます。利用できる制度も異なってくるため、地域医療について学びたい看護師にはおすすめの仕事です。
限られた資源の中で医療を提供できる
訪問看護は事前準備をしたうえで、患者様の自宅へと訪問します。しかし、現場では常に予想通りのことばかりではなく、その場にあるもので対応しなければならない状況もあります。
例えば、訪問した際に寝たきりの患者様がひどい下痢状態になっていれば、ぬるま湯をペットボトルに入れてもらい、その場で綺麗に清拭することもあるでしょう。
訪問看護師は少ない医療材料を効率的に利用しつつ、臨機応変に対応する力も必要です。医療機関で働く看護師とは違った発想力が鍛えられます。
ワークライフバランスを意識して働ける
仕事と家庭のワークライフバランスを意識したい方にとって、訪問看護は働きやすい職場です。訪問看護師は基本的に夜勤がなく、日勤のみの働き方になります。
また、短時間勤務との相性も良いため、ワークライフバランスを高めた働き方を希望する方に適しています。希望に合わせてフルタイムも短時間勤務も選びやすい点は、訪問看護師ならではのメリットと言えるでしょう。
訪問看護師として働くために有利なスキル・資格
訪問看護師として働くために磨いておくと有利なスキル、働きやすくなる資格をご紹介します。
コミュニケーションスキル
訪問看護師は対象となる患者様だけでなく、そのご家族ともお話し、要望を細かく汲み取っていく必要があります。在宅医療でも対応できる部分は意見を取り入れ、難しい部分は医療機関とも相談しながら対応を検討していきます。
医療機関だけでは対応できない課題があれば、医師やリハビリスタッフ、ヘルパー、社会福祉協議会などとの連携の呼びかけも必要です。患者様と家族が満足できる在宅医療を提供するには、綿密なコミュニケーションが求められます。
幅広い医療技術
在宅で治療を受けている方であっても、訪問看護師は輸液ポンプや吸引カテーテル、尿道留置カテーテル、人工呼吸器管理、インスリン注射などの様々な医療行為を行います。
患者様の病態に合わせて対応も変わるため、訪問看護師には幅広い知識と医療技術が必要です。訪問看護師は基本的に1人で対応しなければならず、技術力の不足を言い訳にはできません。
そのため、訪問看護師は医療機関で一定の経験を積み、十分な技術を持った人材が求められます。
論理的な文章を作成する能力
訪問看護師はステーションに帰ってから、その日の記録をカルテにまとめなければなりません。その日の患者様の状態、どのような処置を行ったか、ご家族の要望などを簡潔にまとめる必要があります。
また、大きな変化があれば急いで医師へ報告することもあります。その際、誰が読んでもわかりやすい論理的で、簡潔な記録であることが重要です。
わかりやすい看護記録・文書作成には経験も必要ですから、普段の記録でも簡潔明瞭な内容にすることを心掛けるのがよいでしょう。
保険の知識
訪問看護を利用するには、医療保険と介護保険の両方を活用できます。疾患や年齢によって対応する保険が異なり、支給限度額にも差があるため、患者様と家族に説明できる知識を身に付けておくことが重要です。
MSW(医療ソーシャルワーカー)ほど専門的でなくても構いませんが、それぞれの制度改正が行われたら変更点を確認しましょう。医療保険は2年に1度、介護保険は3年に1度改定されるため、定期的な知識のアップデートが必要です。
自動車運転免許
訪問看護師として働くには、自動車運転免許も取得しておくのがよいでしょう。ステーションの近隣の患者様だけを対象にしている場合でも、多くの医療材料を運搬するケースがあります。
その場合、運転免許を持っていれば移動も楽で、効率的に自宅を訪問できます。運転免許のいらない職場もありますが、持っているほうが職場の選択肢は大幅に広がるのでおすすめです。
訪問看護師の求人を探すなら転職エージェントを利用しよう
訪問看護師として働きたい方、訪問看護師の求人をお探しの方は、看護師向け転職エージェントの利用をおすすめします。
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まとめ:訪問看護師は地域医療の要として今後も需要が期待できる
今回は訪問看護師の役割、1日のスケジュール、メリットなどを解説しました。近年は社会保障費の増大も影響し、在宅医療への移行も国として推進されています。
そのため、日本における訪問看護師の需要はますます高まっていくでしょう。実際に、訪問看護事業所は年間1,000件のペースで増加しており、多くの訪問看護ステーションで看護師が必要とされています。
訪問看護師の仕事に関心のある方は、ぜひ転職先の選択肢に入れてみてください。
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